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パーキンソン病とは
パーキンソン病とは、手の震え・動作や歩行の困難など、運動障害を示す、進行性の神経変性疾患です。進行すると自力歩行も困難となり、車椅子や寝たきりになる場合があります。40歳以上の中高年の発症が多く、特に65歳代の割合が高いです。
錐体外路症状を呈し、アルツハイマー病と並んで頻度の高い神経変性疾患と考えられているます。日本では難病(特定疾患)に指定されていて、本症以外の変性疾患などによりパーキンソン様症状が見られるものをパーキンソン症候群と呼びます。
パーキンソン病の原因
私たちが体を動かしたり、胃が食べたものを消化したり、汗をかいたりする動きや働きは、すべて脳からの指令で行われています。この脳から体の各部分への指令は、神経伝達物質という物質が神経細胞を通じて流れることで伝えられています。
パーキンソン病の患者は、脳の中で神経伝達物質のドパミンが不足することで、指令がうまく伝わらなくなっています。
このドパミンは脳の中脳の黒質という部分の神経細胞で作られていますが、パーキンソン病の患者の脳では、黒質の細胞が減りドパミンの作られる量が少なくなっています。
通常であれば、黒質で作られたドパミンは大脳の線条体という部位で、脳のさまざまな部分との連絡役として働き、体の動きや働きを調節します。
しかしパーキンソン病の患者は、ドパミンが不足して十分な調節が行えないため、体の働きに支障が出るようになり、運動症状や非運動症状が現れると考えられています。
進行速度
パーキンソン病は何年もかけてゆっくり進みます。パーキンソン病は、かつては「寝たきりになる病気」といわれていましたが、適切な治療をすれば症状はかなり抑えられ、発症してから10~15年、さらにはそれ以上の期間、自立した生活を送ることができます。
最も初期から現れる症状は、手足の震えです。進行には5段階あり、最初は症状が体の片側に起こります。進行すると、症状は徐々に両側に広がります。発症してから数年後、さらに進行すると、体のバランスが保てなくなります。その後、介助が必要な段階を経て、最も重症な段階になると、車いすなどが必要になります。
パーキンソン病 症状
主要症状は以下の4つである。安静時振戦、アキネジア(無動)、筋強剛が特に3主徴として知られて、これらの神経学的症候をパーキンソニズムと呼ぶ。
安静時振戦
指にみられることが多いが、上肢全体や下肢、顎などにもみられます。安静にしているときにふるえが起こることが本症の特徴で、精神的な緊張で増強します。動かそうとすると、少なくとも一瞬は止まります。
また、「タッピング様振戦」や、薬を包んだ紙を丸める動作に似ている「ピル・ローリング・トレマー」も見られます。
アキネジア
動作の開始が困難となる。また動作が全体にゆっくりとして、小さくなる。瞬きが少なく大きく見開いた眼や、表情に乏しい顔貌、書字障害などが特徴的です。
筋強剛
体の力を抜いた状態で、手足の関節を他動させた際に、何らかの抵抗がみられる現象です。強剛(固縮)には一定の抵抗が持続する鉛管様固縮と抵抗が断続する歯車様固縮があるが、歯車様強剛が特徴的に現れ、とくに手首で認めやすい。
姿勢保持反射障害
バランスを崩しそうになったときに倒れないようにするための反射が弱くなります。
すくみ足、小刻み歩行、前傾姿勢、突進歩行などが挙げられる。
多くの症例で、特に病初期に症状の左右差がみられる(一側性)。進行すると両側性に症状が現れ、左右差はなくなります。
進行性核上性麻痺
初発症状はパーキンソン病に似ていますが、安静時振戦はまれで、歩行時の易転倒性、すくみ足、姿勢保持障害が目立ちます。
進行するにつれて、頸部の後屈と反り返った姿勢、垂直性核上性眼球運動障害(初期には、眼球運動の随意的上下方向運動が遅くなり、ついには下方視ができなくなる。)、構音障害や嚥下障害、想起障害と思考の緩慢を特徴とする認知症や注意力低下が出現します。
徐々に歩行不能、立位保持不能となって、寝たきりになる。
パーキンソン病 寿命
10万人あたり100~150人の方がこの病気にかかっているといわれています。50~65歳に発症することが多く、患者は年をとるにしたがい増える傾向にあります。
残念ながら、パーキンソン病を完全に治す治療法はまだありませんが、お薬により症状は改善されますし、寿命が短くなることはありません。
お薬でうまく治療していけば、今までと同様の生活をおくっていただくことが可能です。
日本人の平均寿命と変わりはありません。
パーキンソン病治療法
薬を服用する
パーキンソン病で行われる代表的な治療法が薬物療法です。患者の容体に応じて、服用する薬の種類や服用量、薬の組み合わせなどは異なり、いずれも医師の処方が必要です。
処方される薬にどのような副作用があるのか、担当の医師にあらかじめ確認しておき、患者本人と家族がしっかり納得した状態で服用するようにしましょう。
脳の手術を受ける
パーキンソン病による運動障害を改善するために、脳の手術が行われる場合があります。手術が実施されるのは、薬で症状をうまくコントロールできないと医師に診断された場合です。パーキンソン病の手術には、大きく分けて2つのタイプがあります
パーキンソン病の薬
パーキンソン病の本質は脳内のドパミン欠乏なので、治療薬によるドパミンの働きを補うことが主体になります。
治療薬は大きく次の3グループに分けて考えることが出来ます。
- ドパミンの原料:レボドパ(L-dopa)
- ドパミンの代わりをするもの:ドパミンアゴニスト
- その他の薬:補助薬、非ドパミン系治療薬
レボドパとドパミンアゴニストを合わせてドパミン補充薬といいます。
レボドパは脳内に入ってドパミンに変換されて作用します。パーキンソン病の治療として最も基本になる薬で、最も効果がある薬でもあります。
パーキンソン病治療においてなくてはならない薬で、レボドパを用いずに治療できる患者はいないと考えられています。欠点としては作用時間が短いため、初期の患者でも1日3回程度、進行期になると1日6回もしくはそれ以上服用が必要になる事です。
以前は、早期から服用すると効かなくなりやすいと考えられていましたが、今日ではそういったことは否定され、無闇に服用量を増やさなければパーキンソン病の経過に悪影響をもたらさないと考えられています。
ドパミンアゴニストは化学的に合成されたドパミンによく似た物質です。ドパミンよりも効果は落ちますが、長時間作用する長所があります。今日使われているドパミンアゴニストはほとんどが1日1回タイプであり、安定した効果と利便性を実現しています。
レボドパに比べて、吐き気、低血圧などの副作用をもたらしやすいのが欠点です。また、強い眠気や急に眠ってしまう突発性睡眠発作のリスクがあるため、服用している場合は車の運転や危険を伴う作業はできなくなってしまいます。
その他の薬としてはレボドパの吸収を助けたり、体内のドパミンの分解を抑えて薬の効果を増強する補助薬があります。その他に、直接ドパミンの働きは補わないものの、ドパミン不足による脳の神経回路の働きを補正する非ドパミン系治療薬があります。
初期の患者の標準的な治療は、レボドパかドパミンアゴニストのどちらかで開始します。その後、症状の進行に合わせてもう片方のドパミン補充薬を加え、さらに病状に合わせて補助薬や非ドパミン系治療薬を組み合わせて治療を続けていきます。
パーキンソン病の治療薬は脳の疾患の中でも最も開発が進んでいる分野ですが、今のところ単一の薬で生涯を通して治療できることはほとんどなく、むしろ多くの薬を組み合わせて薬同士の短所を補い合うように治療していきます。薬でチームを作って治療していくイメージを持ってもらうとわかりやすいでしょう。
パーキンソン病 手術
凝固術
脳内の特定の部位に熱を加える手術法です。熱を加える部位により、手足の震えや、運動症状の日内変動(1日の中で病状が変化すること)の改善が期待できますが、人によって治療効果に差があったり、持続した効果が期待できなかったりする場合もあります。
脳深部刺激療法
脳の深い部分に電極を設置し、胸には専用の装置を埋め込んで絶えず刺激を与え、神経細胞の活動を休ませます。体に異物を残すというデメリットがありますが、凝固術のように脳内組織を破壊せず、同様の効果が得られるといわれています。
おわりに
パーキンソン病の進行速度は10年〜15年でゆっくり進行するため、発見しにくい病と言われています。その中でも早期の発見をするためには、最初に現れることが多いといわれている、手足の震え、歩き方の変化を、見逃さないことが大切です。
わかりやすいのが、歩幅が小さくなったり、足を引きずる症状です。「高齢だから」「痛めたから」などご自身で症状を特定せずに、このような症状に気付いた時は、神経内科を受診してください。